100万回の祈りをキミに



「俺も春風に顔出すのは久しぶりでさ」

「え……フットサルやってないんですか?」

「うん。大学卒業と同時に春風は抜けたよ。融通が利く会社じゃないし続けんのは難しくて」

てっきりまだ所属してるものだと思ってた。


「まぁ、今は裏方みたいな感じで若い奴らをサポートできたらって思ってるよ」

いつの間にかすぐるさんの車の窓から見慣れた景色が映し出された。

この道を何回亜紀と手を繋ぎながら通って春風のコートに向かったっけ?

悲しいぐらい当時のままで自然と手に力が入る。


「着いたよ」という声が聞こえる頃には懐かしい緑のフェンスが目に入った。

ドクンドクンと胸のざわめきがうるさい。だけど私は練習する声に導かれるように足は前に進んでいた。


「おー寒いのにやってるやってる」

すぐるさんはボールを追いかける春風のみんなを親のような瞳で見つめていた。

人工芝のコートにホイッスルの笛の音。指示や掛け声が飛び交うコートの中はどうやら練習試合をしてるようだった。


「今入ると邪魔になるからもう少し待とうか。なにか温かい飲み物でも飲む?なにがいい?」

コートの近くにある自販機ですぐるさんはココアを買ってくれた。


「けっこう知らない顔が多いでしょ?」

たしかに2年前とは顔ぶれが違うし、人数もかなり増えているように見える。


「あの頃フットサルってあんまり知名度がなかったんだけど、今じゃサッカーと同じくらい人気があるらしいよ」

「そうなんですか?」

「ミニサッカーと勘違いしてるヤツが多いのがちょっと残念だけど。それでも興味を持って春風に入ってくれるのはやっぱり嬉しいよ」


すぐるさんは亜紀と同じくらい春風を大切にしてくれている人だ。

今も変わらずにそう想ってくれてるって知れただけで、ここにきた意味はあったかもしれない。

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