100万回の祈りをキミに



――と、その時。

向こう側から春風のウインドブレーカーを着て、大あくびで歩いてくる人が見えて私はすぐに自販機の裏に隠れた。


「え、波瑠ちゃんどうしたの?」

「しーー。すぐるさんもしゃがんでください」

「なんで……」

「いいからお願いします!」


すぐるさんを巻き添えにして、私はその歩いてくる人物を目で追った。そのままコートの中に入ってベンチで靴を履き替えている。


「健人に見つかったらヤバいことでもあるの?」

「………」


そう、私は夏井から隠れたのだ。

アイツが学校帰りに春風に来ることは想像できたはずなのに、なぜか頭がそこまで回らなかった。


今まで夏井にいくら冷たくしても次の日には「よう。課題見せて」とか言ってくるヤツで。

だけどあの河川敷の一件以来、夏井は私に話しかけてこない。授業中はほぼ寝てるし、休み時間は友達と下ネタトークで盛り上がり、いつも通りといえばいつも通り。


もう二度と話しかけないで、と言ったのは私。

それを素直に聞くような性格じゃないし、きっとそれを守って私に話しかけないのではなく。

ただ単純に私に対して見切りをつけたんだと思う。


別にそのほうがラクだし、私が望んでいたことだけど。不利益があるとすれば隣同士の席がちょっと気まずいってだけ。

< 202 / 258 >

この作品をシェア

pagetop