100万回の祈りをキミに
――と、その時。
向こう側から春風のウインドブレーカーを着て、大あくびで歩いてくる人が見えて私はすぐに自販機の裏に隠れた。
「え、波瑠ちゃんどうしたの?」
「しーー。すぐるさんもしゃがんでください」
「なんで……」
「いいからお願いします!」
すぐるさんを巻き添えにして、私はその歩いてくる人物を目で追った。そのままコートの中に入ってベンチで靴を履き替えている。
「健人に見つかったらヤバいことでもあるの?」
「………」
そう、私は夏井から隠れたのだ。
アイツが学校帰りに春風に来ることは想像できたはずなのに、なぜか頭がそこまで回らなかった。
今まで夏井にいくら冷たくしても次の日には「よう。課題見せて」とか言ってくるヤツで。
だけどあの河川敷の一件以来、夏井は私に話しかけてこない。授業中はほぼ寝てるし、休み時間は友達と下ネタトークで盛り上がり、いつも通りといえばいつも通り。
もう二度と話しかけないで、と言ったのは私。
それを素直に聞くような性格じゃないし、きっとそれを守って私に話しかけないのではなく。
ただ単純に私に対して見切りをつけたんだと思う。
別にそのほうがラクだし、私が望んでいたことだけど。不利益があるとすれば隣同士の席がちょっと気まずいってだけ。