100万回の祈りをキミに



いつの間にか夏井は試合に参加していて、その声がこっちにまで聞こえてくる。

夏井がプレーしてる姿なんて初めて見たけど、普段のおちゃらけた夏井じゃなくて、すぐるさんが言うように真面目で。

悔しいけど、すごい良い顔をしていた。


「波瑠ちゃんさ、健人のウインドブレーカー見たことある?」

すぐるさんはきっとこの話題を私にするかどうか、すごく迷ったんだと思う。なんとなくだけど、その横顔を見て感じた。


「亜紀の……ですよね?」

名前を口にすると、すぐるさんは少し安心したように「うん。亜紀の」と繰り返した。


「あのウインドブレーカーどんな意味だか知ってる?」

「……わかりません」

それは少し間を開けて。

すぐるさんは息を吐くように言った。 


「亜紀と一緒に戦ってるって意味を込めて着てるんだって」


私はグッとココアを強く握りしめた。


夏井は嘘つきだ。

私の心ばかり探ってきたくせに、本当の素顔を見せなかったのはどっちなの?


「……夏井と亜紀ってどんな関係だったんですか?」

「どんな関係だったかぁ……。難しいけど健人は亜紀を目標に追いかけてて、亜紀は健人に憧れてたって感じかな」

「亜紀が憧れてた?」

「うん。健人と話してると元気になるって。慕っていたのは健人じゃなくて亜紀だったんじゃないかな。アイツにだけはなんでも話せるって言ってたよ」


なにがただの先輩後輩の関係だよ。

夏井は本当におお嘘つきだ。

< 204 / 258 >

この作品をシェア

pagetop