100万回の祈りをキミに
「亜紀気分わるいの?」
「……だ、大丈夫……」
「強がらなくていいから。ほら、吐いて」
枕元の洗面器を亜紀の口に持っていき、その背中を擦った。
結局、亜紀の口からは何も出てこなくて、もしかしたらご飯を食べられてないんじゃないかって直感で思った。
脳腫瘍はとくに1日中吐き気に襲われるって本に書いてあったし、ハンマーで殴られてるぐらい痛い頭痛にも亜紀は耐えている。
それを考えると胸が苦しくなったけど、私がここで泣くわけにはいかないから。
「く、薬の副作用かな?亜紀の悪いウイルスもなかなかしつこいよね。早く体から出て……」
「波瑠ごめん」
吐き気が治まった亜紀が顔を上げた。
この〝ごめん〟はなんなのか。
こんな姿を見せてごめんという意味じゃないことは、亜紀の顔を見れば分かる。
「嘘つかせて……ごめん」
「う、嘘って……?」
洗面器を持つ手が震えた。
「俺、脳の病気なんでしょ?」
ドクンッと心臓が跳ね上がる。
「脳腫瘍なんだよね?」
亜紀の顔に恐怖はない。
私はきっと亜紀が気づいているのに気づかないふりをしていたんだ。