100万回の祈りをキミに
亜紀は自分の症状を調べたらしい。頭痛や吐き気、そして嘔吐に視力低下。
それらを繋げて、たどり着いたのが〝脳腫瘍〟という言葉。
みんなが黙ってるということは良性ではなく、悪性だということも亜紀が気づいていた。
「ウイルスなんて説明がおおざっぱすぎるし、何度もMRIを撮ったり脳を調べたりされたら嫌でも気づくっていうか……うん」
私たちが黙っていたことで余計に亜紀を不安にさせてしまったと思った。もし逆の立場だったら自分は隠されるほどの病気なんだってマイナスなことばかり考えると思うし。
「亜紀……み、みんなが亜紀に言わなかったのはね……」
「大丈夫。俺を心配してくれたからだってことは分かってるから」
亜紀が冷静すぎて少し怖くなった。病名を知ったら取り乱すと思ったのに……。
「波瑠。ちょっと窓開けてくれる?」
私は言われるがまま、窓に手を伸ばした。
少し開けただけなのにスーッと空気が冷たくて冬の匂いがした。
……亜紀も外に出たいだろうな。検査ばかりの毎日が息が詰まっちゃうよね。
するといつの間にか後ろには亜紀が立っていて、後ろから強く抱きしめられた。
「波瑠。俺頑張るから」
それは痛いぐらい力強くて、私は包まれてる亜紀の手に触れた。
「うん。私も亜紀を支える。ふたりで頑張ろう」
私たちはまだ病気の怖さなんて知らなかった。
気持ちさえ負けなければ、気持ちさえ折れなかったら、大丈夫だって信じてた。
いや、たぶん違う。
希望はある、必ず治ると私は自分に言い聞かせていた。
亜紀を失うのが怖くて。
亜紀だけは失いたくなくて。