100万回の祈りをキミに
そんな満たされた気分は長くは続かない。
学校帰りに急いで病院に向かい、内緒で肉まんをふたつ買った日のこと。
506号室はなんだか慌ただしくて、いつもは見かけない看護師も出入りしていた。
不安になって中を覗くと、ベッドには亜紀の姿。だけど持っている洗面器が赤く染まっていて、白いシーツもその色になっていた。
「あ、亜紀……!」
買った肉まんとカバンをそのまま落として、私はすぐに駆け寄ろうとした。だけどすぐに傍にいた先生に制止されてしまった。
「今はちょっと入らないでください」
拒まれながらも病室を見渡すと床にもポタポタと赤い跡。
口を押さえる亜紀の手からは大量の血が滴り落ちていて、亜紀が〝吐血〟したんだってすぐに理解できた。
看護師が持っているガーゼやタオルがどんどん血の色になって、銀のトレーにはそれが山盛りに詰まれていた。
「落ち着くまで休憩室かロビーにいてください」
「で、でも……」
私は看護師に無理やり追い出されて、506号室の扉は閉まった。
私はすぐ病室に行けるように休憩室に向かったけど、ソファーに座ることもできなくて、廊下を行ったり来たり。
たしか本で調べた時に吐血のことも書いてあった。
腫瘍によって迷走神経が圧迫されて、胃酸の分泌が活性化される。それで胃のバランスが崩れて吐血する場合もあるって。
きっと亜紀は普段から吐き気に苦しんでたし、余計胃に負担がかかってしまったんだろう。
だけど吐血なんて普通はしない。
亜紀の腫瘍はどうなってるの?
小さくなってるんじゃないの?
胸がざわざわとして、亜紀の血が頭から離れない。
亜紀は私が困った時にいつも助けてくれて。今度は私が助けるんだってそう思ってたけど、私は無力。
亜紀は何度も私を励まして何度も救ってくれたのに、私はなにもしてあげられない。
ごめん。ごめんね。
祈ることしかできない自分が嫌い。