100万回の祈りをキミに



それから亜紀のお母さんが来て、そのまま病室に入れてもらっていたけど私はかやの外。

結局その日は亜紀に会えなくて、そのまま帰ることになった。


家に帰ってもずっと亜紀のことが心配で、あの光景が頭の中でグルグルとしている。

用意してくれた晩ごはんも喉を通らなくて、早々に私は箸を置いた。


「どうしたの?」

正面に座るお母さんが私のことを見た。


お母さんにも亜紀の病気のことは話した。

いつも病院に行ってからの帰りは遅くなるし、なにかがあった時に車を出してもらうにしても、少なからず協力をお願いすることがあると思ったから。


「今日亜紀が吐血しちゃって……」

「と、吐血?」

お母さんの声が裏返った。その顔は次第に青くなっていく。


「口から血が出てたの?見たの?」

「う、うん。見たよ……洗面器に収まらなくて床にも……。な、なんでそんなこと聞くの?」

急に不安になってきて動悸が止まらない。


「キヨさんの旦那さんはね、亜紀くんと同じ脳腫瘍だったの。もう80過ぎだったからあまり意志疎通できなくて頭が痛いとか言えなかったから気づくのが遅れてね」

「………」

「それで急に吐血したから病院に搬送したら脳腫瘍だって。脳腫瘍で吐血は滅多にしないから、より詳しく調べたら胃にも転移してて……」

「あ、亜紀に転移はないよ!だってなにも言ってないし、脳の腫瘍だって小さくなってるって」

「だといいけど……」


吐血が医学的には良くないことだって私も知ってる。

だけど亜紀は改善してるはずだもん。最近すごく元気だし、中庭にまた散歩いこうねって話してるし。

だけどお母さんがそんなことを言うから私は夜、なかなか眠りにつくことができなかった。

< 218 / 258 >

この作品をシェア

pagetop