100万回の祈りをキミに
「それで……どうやって脱け出すの?」
看護師が食器を片付けにきたあと、小さな声で亜紀に聞いた。
「ロビーは21時で閉まるから中庭に続くドアから。周りを囲んでるブロック塀はそんなに高さはないし、学校の門を飛び越えるより簡単だよ」
亜紀と夜の学校に忍びこんだのが懐かしい。
「でも夜の見廻りとかどうするの?」
「見廻りは0時に来るから、それが終わったら脱け出す」
「わ、私はその時どこに?」
「ん?俺の布団の中」
つまり私は帰ったふりをして、面会時間を過ぎても部屋にいて身を潜めてろってことですか。
なんか面白そう……!とか思った私はわくわくしている亜紀の思考が移ったのかもしれない。
そして時間はあっという間に過ぎて消灯時間になった。
病室は思った以上に真っ暗で、窓からの僅かな明かりしか照らすものはない。
亜紀もすぐ出掛けられるように私服に着替えて「どうぞ」と私を布団へと招く。
亜紀のぬくもりがある布団は温かくて、私は猫のように亜紀にくっついた。
「なんかこうして病室のベッドにふたりで寝てるなんて不思議だね」
「毎晩波瑠がいてくれたらいいのになぁ」
亜紀が喋ると首もとの筋肉が動いて、私はそこに顔を付けてスリスリとした。
「波瑠が可愛くてヤバい」
「ん?ヤバいって?」
すると亜紀は私のおでこにチュッとして、まつ毛に頬とだんだんと下がり、最後は唇にした。
何回も何回も重ねる内に溶けるほどのキスをして、見廻りが終わるまで私たちはずっとそれを繰り返していた。