100万回の祈りをキミに
そして時間になり、計画どおり中庭からブロック塀を越えて外に出ることができた。
丘の上にある自然科学天文台はもちろん真っ暗で、人の気配がない。
亜紀は事前に預かっていた鍵をポケットから出して、建物の入り口を開けた。
実はこの脱け出す計画は亜紀のお父さんも知っていて、亜紀が頼んで鍵を渡してくれたらしい。
脱け出すことに賛成はしてなかったけど口数少なく「ムリだけはするな」と許可してくれたとか。
またお父さんに会ったらお礼を言わなきゃ。
亜紀とこの場所に来れるなんて本当に夢みたいだ。
建物の中は音ひとつしなくて、響くのは私と亜紀の足音だけ。非常灯の明かりだけを頼りに進んで螺旋階段の上にある部屋を目指した。
中は相変わらず不思議な空間で、真ん中には大きな望遠鏡。
そこへと続く小さな階段を先に登ったのは私。
手足の痺れがある亜紀に負担をかけないように手を伸ばすと、亜紀は嬉しそうに手を差し出して私はそのまま引っ張りあげた。
「あの日と逆だね。あの時は俺が波瑠を引っ張った」
「そ、そうだっけ?」
なんて、とぼけたけど嘘。本当は初めて亜紀の手に触れて、その感触もドキドキした鼓動も全部覚えてる。