100万回の祈りをキミに
亜紀の容態が急変したのは、それから5日後のことだった。
私は2学期の終業式を終えて、そのまま病院へと向かい、今日は珍しく亜紀のお母さんとお父さんも揃っていた。
楽しく病室で話をしていたら、亜紀が急に頭が痛いと言って。
薬を飲んでも治まらないから、お母さんが主治医の先生を呼びに行ってすぐ、亜紀は意識を失った。
慌ただしく看護師が506号室にやってきて、亜紀の胸に心電図に繋がる電極を次々と取り付けていく。
ピピピッと響く病室。
モニターに映し出された亜紀の心臓の波は不規則で、だんだんと弱いものになっていく。
「亜紀っ!」
お母さんが亜紀に駆け寄った。
大きく体を揺らしても亜紀に反応はなくて、お父さんがそっとお母さんの肩を叩く。
先生や看護師たちも亜紀から離れて、見守るように距離をあけた。
ピピ……ピ……。
心臓の波が小さくなっていく。
お母さんやお父さんの小刻みに震える背中を見ながら、私はただ怖くて立ち尽くすだけ。
いつかこんな日がくるとわかっていた。
覚悟はしていた。
だから後悔しないように。
後悔だけはしたくないからたくさん話そうって。
たくさん会おうって。
たくさんたくさん笑っていようって約束した。
覚悟はしていた。
していたはずなのに、私はずっと弱くなっていくキミを見ながら祈ってた。
どうか彼を連れていかないで。
どうかずっと傍にいさせて。
どうか私の大好きな人を。
私の大切な人を奪わないで、と。
亜紀、亜紀、亜紀――。
何度も何度もキミの名前を呼んだ。
亜紀はそれから間もなく、眠るように息を引き取った。
真っ白なキレイな顔をして。
12月22日。
粉雪がパラパラと舞う寒い寒い冬に、亜紀は16年の人生を終えた。