100万回の祈りをキミに
「私いま誠陵高校に通ってるんです」
少しずつ会わなかった間の話をして、お母さんは「うんうん」と聞いてくれていた。
リビングには家族写真がたくさん飾ってあって、もちろん亜紀の写真もある。それを見ている私の視線に気づいたのか、お母さんはぽつりと話はじめた。
「亜紀の部屋や物も実はそのままなのよ」
「え?」
「ほら、亜紀のスマホも。ずっと解約できなくて。いつかはしなきゃって思ってるんだけどね」
お母さんが見せてくれたスマホ。
それは使っていた当時のままで、待ち受けや履歴さえもそのまま残っていた。
私が何度もかけるのを躊躇した亜紀の番号。
その声が聞きたくて、だけど繋がらないと知るのが怖くて。番号だけをただ見つめては泣いていた。
まさか、解約してないなんて夢にも思ってなくて……。
「私もね、亜紀がいなくなってからも3人分のご飯を作っちゃったり、目覚ましの音が鳴らないから思わず起こしにいっちゃったり。なかなか受け入れることができなかったの」
「………」
「でも周りの人に助けてもらいながら、ようやく気持ちが追いついてきて。だからこうして波瑠ちゃんが家に来てくれたことが嬉しいの」
私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。
みんな前を向いて、日常を過ごしていて、亜紀がいないのになんでって私はずっと思ってた。
だけど大切な人を失って、日常に戻ったのではなく、みんな日常に戻るために一歩ずつ前に進んでいただけ。
自分なりにできることを。自分なりのペースで。
私だけ、なんてそんなことは、なにひとつなかったんだ。