100万回の祈りをキミに
「お母さん……。亜紀の仏壇に手を合わせてもいいですか?」
「ええ。もちろん」
リビングの奥にある襖を開けると、そこは畳の和室で。目の前には黒の仏壇がひとつ。
亜紀のおばあちゃんやおじいちゃんや、ご先祖さまの写真が飾られる中、亜紀の遺影はキレイな花の前に置いてあった。
「この写真って……」
「2年前のフットサルの試合後に撮った写真よ。亜紀すごくいい顔してて。遺影の写真を選ぶ時に迷わずこれにしたの」
あの夏。
1回戦目なのにもう優勝したかのように大喜びして。帰り際に春風のコーチが撮ってくれた写真。
お葬式の時は脱け殻で、遺影を見ることもできなかったけど、いま私はまっすぐに亜紀と目が合っている。
「たしかに、すごくいい顔してますね」
大好きな亜紀の笑顔に会えた。
ごめんね。時間がかかってごめんね。
私は膝を着いてお線香に火をつけた。そして両手を合わせて亜紀と向き合った。
たくさん、たくさん伝えたいこと。
伝えなきゃいけないことがある。
――と、その時。ピンポーンと亜紀の家のインターホンが鳴った。
お母さんが確認すると、どうやら宅配便で。戻ってきたお母さんの手には白と赤の小さな花。
それはまるで春風のテーマカラーのようで、すぐにお母さんは花を仏壇へと供えた。
「キレイでしょ?いつも同じ花を送ってくれたのよ」
「……だれがですか?」
「夏井くん」
ドクンと、胸が跳ねる。
「実はあれから月命日に決まって花を届けてくれるの。この前なんてお墓に行ったら座りこんでてね」
お母さんが思い出したようにクスリと笑った。
「夏井くんったら亜紀に会いたくなったり話したくなったら、いつもお墓の前に座って何時間もいるのよ。亜紀は幸せね。そんなお友達がいて」
ごめん、亜紀。
伝えたいことはもうちょっと待ってて。
私はもうひとり、夏井にも言わなきゃいけないことがあるんだ。