100万回の祈りをキミに
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亜紀の家からまっすぐに走って。私はずっと入ることができなかった庭園墓地に向かった。
「……ハァ……ハァ」
一歩、また一歩と歩く足を速めて、いつの間にか私は全力で走っていた。
離ればなれになった私と亜紀をもう一度繋いでくれたのは間違いなく夏井。今までのことを走馬灯のように思い出しながら、庭園へと着いた。
いつも外から眺めるだけで足を踏み入れられなかったこの場所。息を整えて中に入ると、行く先を導くような白いタイル。
周りには整えられた木々が並んで、私の想像する墓地よりずっと明るくて、ずっと美しい場所だった。
ゆっくり、だけど確実に前に進んで私は足を止めた。
「亜紀になに話してるの?」
どこからか柔らかい風が吹いて、私の頬を通りすぎていく。
「なんでお前に話さなきゃいけねーの?」
それは意地悪な顔をして、夏井は亜紀のお墓の前に座っていた。
あの学校帰りから、そのままここに来たんだろうか。時間が随分と経ったのに夏井はまだ話足りないって顔で、亜紀のお墓を見つめている。
「内容ぐらい教えてくれてもいいじゃん」
私は静かに夏井に近づいて、亜紀のお墓を一緒に見た。
ここに亜紀が眠っている。
私はすぐにお墓にもお線香をあげて手を合わせた。その様子を黙って見ていた夏井が口を開く。
「いつもフットサルチームの現状だったり報告だったり、あと藍沢のこと話してた。お前が今日も空を見てぼけーっとしてたとか、好き嫌いしてたとか、先輩に会いたそうにしてたとか」
亜紀のお墓には新しい花と夏井らしく肉まんとアイスが供えてあった。
きっと夏井のことだから「アイツずっと先輩先輩って言ってますよ~」とか「いつか引っ張ってでも連れてきますから」とかそんな私でも想像できるような会話をしていたのかもしれない。
「私のこと報告して亜紀はなんて言ってた?」
「ははって笑ってた。それで……」
「「波瑠は波瑠だなぁって」」
私の声と夏井の声が重なった。