100万回の祈りをキミに



きっと姿形があるから〝会う〟ってことじゃないし、〝話す〟ってことでもない。

亜紀はちゃんと私たちに色々なものを残してくれた。

それは、すぐになくなるほどちっぽけなものじゃなくて、一生残るような大切なものを教えてくれた。


亜紀は消えない。


ずっと心の中にいるし、語りかけたら返事もくれる。

これを言ったら亜紀はなんて言うのか分かるぐらい私たちは近い存在にいたのだから。


「俺、先輩と知り合えて先輩と出逢えてよかった。俺の一生の自慢だ」

夏井が優しい顔で笑った。


「藍沢は?藍沢は苦しいことばかりだった?悲しいことばかりだった?先輩と出逢わなきゃよかったって思う?」


たしかにあの日々は苦しかったし、悲しすぎた。

だけど、思わない。思うはずない。


「亜紀と出逢えてよかった。私、幸せだった」

それを言った瞬間、涙が溢れた。


あの日々を過去のものにすること。

それは悲しいことじゃない。

キミを想うのはうつ向いてじゃなくて、前を向いて想いたいから。

だから、もうごめんねは言わない。

亜紀にも言わせない。


「……っ。私これからはいっぱい亜紀に〝ありがとう〟って伝える!ありがとう、ありがとうって何度も言いたい」

「うん」

「そう思わせてくれた夏井だよ。……夏井も本当にありがとう」

「おう」


あれからいくつ涙を流しただろう。
あれからいくつ空に祈っただろうか。

祈るのは今日でおしまい。

今からは祈りじゃなく、キミに届くように。

大切な人へとこの気持ちが届くように。

ひとりじゃなく、だれかと寄り添いながら空を見上げよう。

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