100万回の祈りをキミに
・雪の果て・
それは雪が降った寒い冬のことだった。
ここら辺じゃ雪自体めったに降らないし、それが積もるほどだとニュースになるぐらいの大騒ぎ。
だからフットサルのチームメイトは試合が中止になっても、やれ雪合戦だ、やれ雪だるまだってはしゃいでた。
……はあ、今日の試合で勝てば優勝できたかもしれないのに。
俺は白いウインドブレーカーをカシャカシャと鳴らしながら、ある場所に向かった。
――コンコン。
扉をノックした。
「先輩。今日の試合雪で……」と扉を開けながら言うとすぐに「しー!」と注意された。
いつもベッドの上にいる塚本先輩。先輩とは同じフットサルチームで、俺の憧れで尊敬する人だ。
そんな先輩に脳の病気が見つかったのは数か月前のこと。病状は深刻で手術もできないほどだと聞いた。
だけど先輩は見舞いにくると絶対にベッドから起き上がって気丈に振る舞う。誰よりもツラいはずなのに。
「さっき寝ちゃってさ」
「ああ、彼女さんですか」
先輩のベッドにうつ伏せになって寝ている女の子。
先輩はよく彼女の話を俺にする。2つ下の俺と同じ年の子が気になるといってから付き合い出すまでの過程も知っている。
誰から見てもカッコよくてモテる先輩が「どうしたらいいと思う?」なんて、俺なんかに相談するぐらい本当に彼女のことが好きで仕方ないって分かる。
たまにフットサルの試合を見にきてたけど、他の人なんて眼中にないってぐらい先輩のことだけを応援してたっけ。