100万回の祈りをキミに
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次の日。いつもより一本早いバスに乗った。いつもは座れるのに通勤中の会社員が多くて、自然に後方に押されてしまった。
「お昼どこで食べる?うちのクラスのみんなはグラウンドで食べるらしいけど」
私と凪子は銀色の手すりになんとか掴まることができた。
「うーん。日陰ならいいけど空いてなかったら教室がいいな」
天気予報では曇りだって言ってたのに朝起きたら日差しが強い晴天だし……。誰かがてるてる坊主でも作ったんだろうか。
「あ、夏井くんいるよ」
凪子の視線を追うと一番前のほうに立っている夏井がいた。耳にはイヤホンをして眠そうに大あくびをしている。
昨日の凪子の言葉。
――『夏井くんって昔どっかで見たことない?』
私は即答で「ない」と言ったけど、なんとなく気になっている。家に帰ったあとも少しだけ考えてみたけど私が夏井を知ったのは高校に入学した2か月前だし。
そもそもあんなうるさいヤツに会ったら、忘れるわけがない。
「うーん。やっぱり夏井くんって見たことある気がするんだよね」
「もうまだ言ってるの?」
凪子は今も思いだそうとしてるけど、どうしても思い出せないらしい。
「人違いじゃない?夏井みたいな顔の人けっこういるし」
「そうかなぁ?」
そうだよ。短髪で塩顔で、このバスにも何人かいるよ。
結局凪子は最後まで記憶を振り絞ってたけど、そんなことをしてる内にバス停に着いた。