100万回の祈りをキミに
廊下は椅子を運ぶ生徒たちで混雑しててゆっくりしか進めない。しかも階段は見えづらいし、気をつけないと足を踏み外しそうだ。
「夏井めっちゃ荷物多いじゃん!家出でもすんの?」
ケタケタと夏井は他クラスの友達にからかわれていた。
自分の分の椅子と荷物だけで大変なのに、夏井は安藤さんの椅子を重ねて2脚を運び、肩には自分の荷物、後ろには安藤さんのリュックを背負っていた。
夏井本人は「うるせー」なんて笑ってるけど。
夏井の身長は平均よりも少し高くて体格は今どきの男子って感じでまぁまぁ細い。だからこういう役目は力がありそうな人に任せたらいいのにって思う。
そんなことをぼんやり考えていたら案の定、夏井は自分の手荷物を廊下に落とした。
「ちょっと急に止まらないでよ」
「あー待って待って。俺のカバンがまだ……」
ほらね。夏井のカバンは踏まれてるし、みんな手が塞がってるんだから助けてくれないよ。
自分ができる範囲を知らない人って本当にバカだと思う。
できないなら手伝ってもらえばいいし、2回に分けて運んだらいいのに不器用というかなんていうか……。
「はい」
気づけば私は夏井のカバンを拾っていた。