100万回の祈りをキミに
「波瑠~」
それからすぐに凪子がやってきた。
クラスの女子たちは見えやすい場所に移動しちゃったから、席は荷物を残した空席だらけ。
「ここ座っていいかな?」なんて隣を指さす凪子に私は「どうぞどうぞ」と軽い返事をした。
「3組って真ん中で全部の競技見えるからいいよね。私なんて6組だからあんなに端っこだよ」
グラウンドを囲むように椅子は並べられて北側が1年生、東側が2年生、西側が3年生の順番になっている。
たしかに1年6組は端だけど、木陰で羨ましい。
こんな直射日光浴び続けてたら体育祭が終わる頃には真っ黒になりそう。
「6組ってなに色?」
「黄色。あ、もうすぐ始まるよ!」
パンッ!というスターターピストルの音とともに1番目の選手が走り始めた。結果は6人中、青は4位。
最後の人がゴールして、すぐまた次の人がスタートラインに立った。
「たまに走りたくならない?」
パンッ!と2回目のピストルが聞こえた時、ふっと凪子が言った。
友達以上の親友でも聞けないことはたくさんある。凪子にとってこれはそのひとつ。
「ならないよ。通学の坂道で息切れするんだよ。もう走れないよ」
「そっか」
たしかに私は走ることが好きだった。それしか得意なものがなくて唯一の自慢だった。
だから走れなくなって空っぽになりかけて。でもならなかったのは凪子や彼のおかげだと今でも思ってる。