100万回の祈りをキミに



「位置について、よーい」

またピストルの音が鳴った。


走りたいとは思わない。
だけど走れたら気持ちいいだろうなぁとは思う。


――その時、私の瞳に青のハチマキが見えた。

それはまるで風のように速くて、目が追いついた時にはもうゴールしていた。


「ねぇ、今の夏井くんだよね?速すぎない?」

「………」


いや、速いなんてレベルじゃないよ。

たしか高校1年生の男子の平均は14秒。11秒前半で陸上部でも一目置かれるぐらい。

目視でしか分からないけど、あのスピードなら10秒後半ぐらいなはず。


みんな「おー!」とか盛り上がってるけど、なんで誰もタイム計ってないの?

もう1回、正式なタイムを……って、なに熱くなってるんだろう。私。


もう陸上部でもないし、タイムとかどうだっていいのに……久しぶりに体がうずいた。

だけどすぐ冷静になって、その気持ちをなくした。                


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