100万回の祈りをキミに



「夏井。お前はまたジャージか」  

エアコンもなければ扇風機もない教室は蒸し蒸しとしていた。早坂先生は夏井を見るなりため息をついて呆れている。

水遊びをしようと提案するのはいつも夏井なのに、結局みんなから標的にされて夏井の制服はびしょ濡れ。だから最近はいつもジャージだ。


「夏井ー。この前借りたDVDだけどマジですごかった!」

「だろ?あれシリーズものだからまた貸そうか?」

「うん!頼む!!」


夏井との席は離れているのにそのでかい声はよく届く。後ろの席の男子といつも下ネタ系の話をしているし、PTOってやつを少しは考えてほしいぐらい。

「夏井、夏井」ってみんなが名前を呼ぶし、なんでそんなに好かれているのかよく分からないけど。


「ねぇ藍沢さんは夏休みどこか行ったりするの?」


休み時間や昼休みはみんなその話ばかり。まだ夏休みまで2週間あるのに安藤さんの手帳は予定でびっしり埋まっていた。


「んー。特にないかな」

「えー旅行とかは?」

「家族は仕事だし、旅行とかそういうの滅多にうちは行かないから。安藤さんは海外に行くんだっけ?」

「うん。家族でグアム。お土産買ってくるからね!」


グアムとかすごいなぁ。安藤さん以外にも何人か海外旅行に行く人いるし、あんまり珍しいことじゃないらしい。

そういえば凪子も国内だけど旅行に行くって言ってたっけ。昔はうちの家族も行ってたけど、年齢と共にそのイベントもなくなっていった。

旅行も行かないし特に予定がないから寂しいヤツとか思われてそうだな、私……。

< 48 / 258 >

この作品をシェア

pagetop