100万回の祈りをキミに



「あーそれはそうと連絡先教えてよ」

またその言い方にムッとして、夏井を睨んだ。


お前夏休みさーってなにかを言いかけて急に連絡先とかなんなの。まぁ、それを遮ったのは私なんだけど。

「ムリ」と即答するとそれを上回るスピードで「なんで?」と返ってきた。


「逆になんで?教える必要ないじゃん」
 
「連絡することあるかもしれないだろ」

「ないよ」

「あるよ」

「ないって」

「あるって」

「だからないってば!」


あまりのしつこさに〝らしくない〟声をあげてしまった。

それから私は早歩きで教室までたどり着いて、夏井から逃げるように席に着いた。


元々友達は多いほうじゃないし、男友達もいなかったから私の電話帳に入っている異性の名前は亜紀だけ。

電話番号もアドレスもそのままで、やり取りしていたメールは保護して、電話の履歴は消えないように新しいものは削除している。


今でも声が聞きたくなると、番号を見つめては物思いにふける。

だけど、どんなに苦しくてもどんなに寂しくても私は絶対に発信ボタンは押さない。


それは繋がらないと知っているからじゃなく、
繋がらないと知ってしまうのが怖いから。


この11ケタの番号はただの数字でしかないことも、発信音さえ鳴ることがないことも、あの優しい声で電話に出ることもないと、自分の耳で知るのが怖くてたまらない。


だって亜紀と繋がっていたものが、ひとつひとつ消えていく。

そんなの、受け入れられない。


受け入れる強さなんて私は持ってない。


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