100万回の祈りをキミに




――『気分転換に今度デートしようか』

そう言われて数日が経った。


あれから特に変化はないし、校内でも亜紀先輩とは会わない。思えば先輩を見かける場所といえば部活中のグラウンドかその帰り道。

まだ陸上部を辞めたわけじゃないけど、部活には顔を出してないし帰る時間も違うから尚更会えない。


先輩が私を元気付けるために言ってくれたことは分かってる。だけど……。


「波瑠、食欲ないの?大丈夫?」

給食の時間。

6席ずつ席を向かい合わせにして班で給食を食べるのが中学校でのルール。くじ引きで凪子と同じ班になれたのは嬉しいけど、考えごとをしていたせいで箸が止まってしまっていた。


「ううん。大丈夫大丈夫」

「それならいいんだけど。あ、昼休み中庭行こうよ!今日天気いいしさ」

「いいよ」


先輩との件は言ってないけど、足のことと部活のことはちゃんと凪子に話した。

すごく心配してくれたし、自分のことのように悲しんでくれた。


あの呼吸を忘れるほどのクラウチングスタートの鼓動や0.1秒で競うあの世界。

体と風が一体化したようなあの瞬間がもう体験できないなんてまだ信じられないし、練習しない日々が続く焦りさえある。

今ならきっと間に合うし、自己最高記録を出した感覚も残っているのに、足はどんどん鈍(なま)っていく。


やっぱり悲しいし悔しいけど、走ることが全てじゃないと思いたいから、私は前に進みたい。

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