100万回の祈りをキミに
そのあと家に帰ってずっと凪子の言葉を思い出してた。
先輩を意識してることは認める。だってクラスメイトや他の男子にはドキドキしたりしないもん。
でもそれが恋愛の〝好き〟かどうかなんて分からない。
――コンコンッ。
その時、部屋のドアがノックされた。
そこから顔を出したのはお母さんで、私の洗濯物を畳んで持ってきてくれたみたい。
「ここに置いておくね。あ、陸上部の退部届け夏休み前までに出さなきゃダメよ。新しい部活も2学期に合わせるようにして徐々に決めていかないとね」
……そうだ。部活も決めなくちゃ。
早坂先生が色々な部活を見学してもいいって言ってたし、そろそろ入りたい候補ぐらい見つけておかないと。
だけど私の頭の中は今べつのことでいっぱいだ。
「ねぇ、お母さん。お母さんの初恋っていつ?」
「えーどうしたの急に」
恋愛の話なんていつもしないし、聞いたこともなかったけど。お母さんは「うーん」と記憶を遡っていた。
「たしか中学1年生の時だったかな。同じ部活の先輩でね」
「へ、へぇ……そうなんだ」
まさかお母さんも私と同じ歳の時に、しかも相手が先輩だったなんて……。
「初恋ってお父さんじゃなかったんだ」
「もう違うわよ!初恋相手の人はすごくカッコいい人でね。先輩ってだけですごく大人に見えて、部活行くのが楽しみだったのよ」
お母さんはまるで少女のような顔をして当時を思い出していた。
「その人……今なにしてるの?」
「卒業しちゃってからは会ってないし、もう何十年も前の話だからね。結婚して子供もいるわよ。きっと」
そしてその言葉に付け加えるように「初恋は実らないものなのよね」とお母さんは呟いた。