100万回の祈りをキミに
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それから暫く経って私はゴロゴロと夏休みを過ごしていた。
課題を1ページ進めては手を止めて、アイスを食べたりテレビを見たり。こんな生活してたら学校が始まる前に3キロは太りそう……。
と、その時、リビングでスマホが鳴った。
『もしもし藍沢さん?いま電話平気?』
かけてきたのは安藤さんだった。
夏休み中も何回かメールのやり取りはして、1週間前にこれから飛行機でグアムに行くと連絡がきたのが最後だった。
『今日旅行から帰ってきたんだ。お土産渡したいんだけど夕方会えないかな?』
まさか本当に買ってきてくれるなんて思ってなかった。私はどこにも行く予定がないのに悪いなぁ……。
べつに用事があるわけじゃないし、せっかく電話までかけてきてくれたから私は夕方に安藤さんと会う約束をした。
まだ時間はあるし、それまでに課題をもう1ページぐらいやろうとプリントに手を伸ばした瞬間、またすぐにスマホが鳴った。
なにかいい忘れでもあったのかな?なんて、電話に出ると耳から聞こえてくる声は安藤さんじゃない。
『お、藍沢。やっと出た』
……げ。
画面を確認すると【夏井健人】の文字。
連絡先を教えてから何回もメールや電話はきていた。いつも中身のない内容でずっとシカトしてたのに、安藤さんだと思ってつい電話に出てしまった……。
『なんか用?』
出ちゃったものはしょうがない。
とりあえず用件だけ聞いてすぐに切ろう。
『今日暇?』
『暇じゃない。じゃあね』
『あ、ちょ、ちょっと待て!』
電話越しでも夏井の声はでかい。スマホを耳から遠ざけて私は忙しいふりをした。
『今手が離せないんだけど』
そう言いながら一問も解いてないプリントの上でペンをくるくると回した。
『今日夕方暇じゃねーの?暇だったら……わ、ちょっとやめろ!』
夏井の声の後ろで『ワンワン』と犬の鳴き声がした。どうやら犬を飼っているらしい。どうでもいいけど。
なんだか犬が夏井の邪魔をしてるみたいで、ガシャンッとスマホを落としてる音が聞こえる。
私的にはありがたい。
『もう切るから。じゃ』
『え、おい!』
夏井の声を無視して私は電話を切った。