100万回の祈りをキミに
……花火なんて何年振りだろう。
だいたい私が花火をやろうと思ったり見に行こうとしたりすると雨が降って。だから花火を楽しんだ記憶なんて小さい頃しかない。
「なぁ藍沢。ちょっと話したいことあるんだけど」
隣で花火をしている夏井が突然言った。
横目でチラッと見ると珍しく夏井は真剣な顔をしていた。だけど夏井が真剣な話なんてするわけがない。
いつも騙されて聞く耳を立ててしまうから、夏井だって調子にのる。これ以上馴れ馴れしくされないように予防線はちゃんと引いておかないと。
「おーい!夏井!こっち来いよ!」
私が返事をせずに黙っていると、男子が向こうで夏井を呼んでいた。
「早く行けば」
「だから話が……」と言葉の続きを言おうとしてたけど「夏井ー!」という叫びには勝てなかったみたい。
「あーわかったよ!!」
夏井はガシガシと頭を掻いて私から離れた。
今日って運がないようであるのかも。困っていると必ず助け船がくるし。
「藍沢さん、隣座っていい?」
夏井と入れ替わるように安藤さんが隣にきた。
「うん。いいよ。チョコレートありがとう。私どこにも行く予定ないからお返しとかできないけど……」
「ううん。そんなこと気にしないで」
夏井と違って安藤さんは穏やかで、ちょっとだけ気持ちが安らいだ。
「夏井なんか犬くさっ!」
「あー昼間にアイツ脱走したから追いかけっこしてたし」
「あはは、脱走とか嫌われてんじゃん!マジうける!」
それなのにあっちでは夏井を囲んでまた騒いでるし。
「夏井って本当にいつも中心にいるよね」
隣の安藤さんが笑っていた。
中心というか夏井って台風の目みたいなヤツなのかも。周りもそれに引き寄せられてぐるぐると同じ方向に回っていく感じ。
私は絶対巻きこまれたくないけど。
「私ね……夏井のこと少し気になってるんだよね」
騒がしい声にかき消されそうだったけど、安藤さんの声はちゃんと私に聞こえていた。