100万回の祈りをキミに



「ったく。雑用なんて頼んだヤツが自分でいけって感じだよな」

夏井はロープと三角コーンを私の代わりに持ってくれていた。教室に戻るまでの間、いつもより騒がしいはずの校内の雑音が今はほとんど聞こえない。


亜紀がいた姿に少しでも触れたくてこの学校にきた。

どんな景色を見て、どんな匂いを嗅いで、どんな毎日を過ごしていたのか知りたかったから。

だけど同じクラスにいたはずの同級生たちは亜紀のことなんてすっかり忘れて、微かに覚えていた人でさえ名前すら分からなかった。


――『誠凌はいいところだよ。だから波瑠も2年後においで』

そう笑顔で言った亜紀はどこにいるの?


忘れたくない。

キミと交わした言葉のすべてやキミが動かした指先のひとつまで忘れたくなんかないのに、思い出そうとしても思い出せないことが沢山ある。

過去のものになんて絶対しない。

絶対にしたくないのに……。



「押し潰されんなよ」

心に直接叩きつけられたかのように、その声が胸に刺さった。


「あんな言葉で押し潰されんな」

それを言ったのは夏井。


なんのことを言ってるの?
なにに対して言ってるの?

なんでそれを夏井が言うの?


その真剣な顔が何故か私の中にいる亜紀と重なる。


なんで、なんで……。


ねぇ、キミはだれなの?

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