100万回の祈りをキミに
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「それってもう付き合ってるんじゃないの?」
自然科学天文台に行った次の日。凪子にオリオン大星雲の感動とあの日のやり取りを話したらそう真顔で言われた。
「え?付き合ってないよ」
「タメ口で、しかも名前呼びなんて先輩後輩の関係越えてるじゃん」
「そ、そうなの?」
たしかに私だってふたつ上の先輩にタメ口で話して下の名前で呼ぶことに違和感はある。
ただでさえ学校では上下関係が厳しいし「亜紀~」なんて呼んでるところを見られたらどうなっちゃうんだろう。
「まぁ、ふたりきりの場合でしょ?いいなぁ。亜紀先輩が彼氏なんて羨ましい」
「だから彼氏じゃないよ!」
浮かれたらダメだって分かってるけど浮かれてしまう。男の子を名前で呼ぶだけで特別感があるのに、その相手があの亜紀だから浮かれないほうがムリだ。
ちょっと鼻唄なんて歌っちゃったりして。先生に頼まれた雑用も今日はルンルン気分でできちゃう。
「つーかブスが化粧なんてしてんじゃねーよ」
教材室から世界地図を取りに行った帰り、死角になってる階段の下でそんな声が聞こえてきた。
「毎日一緒に帰ってるとかキモいから。ってか帰る友達いないの?友達ひとりもいないとか、もしかしてオタク系?」
聞いちゃいけないと分かっていても聞き耳を立ててしまった。
顔は見えないけど、足元の上履きの色が青だから3年生の女子だ。ってことは罵倒されてるのは……。
「次調子にのってるの見かけたらマジでボコるから」
そう言って数人の女子たちが歩き去る中、奥から出てきたのは綾乃だった。
すぐに声をかけようとしたけど、涙ぐむその顔を見たら足が前に進まなくて結局声をかけられなかった。