100万回の祈りをキミに
「あ、亜紀はそのえっと……」
「ん?なに?」
言い出したのは私なのに言葉が詰まる。
だって踏みこんだ質問はしちゃいけない気がして。
そもそも私なんかが質問できる立場じゃないって思ってたし、色々と聞いたら迷惑なんじゃないかって考えちゃう。だけど……。
「かかか、彼女とか……好きな人とか……いないんですか……?」
敬語になってしまった上に呼吸をする音のほうが大きいぐらい、だんだんと声が小さくなってしまった。
こんなの〝あなたを意識してます〟って言ってるようなものだ。ただ聞いただけなのに恥ずかしくて穴があったら入りたい……。
「彼女はいないよ。好きな人は知りたい?」
亜紀の口元が緩む。
ズルい。そんな甘い顔して小悪魔みたいなことを言うなんてズルすぎる。
「……できれば、教えてほしいです」
「うーん。でも波瑠が敬語になったからダメだな」
「え、じゃ、タメ口に戻すから……」
「もうダメ」
亜紀にどんどんハマっていく。
結局聞けなかったけど、このやり取りでお腹いっぱいというか、好きな人の名前を言われたら言われたでショックを受けるから逆に良かったかも。
こんなにモテてカッコいい人が彼女持ちじゃないってことだけで奇跡で。
いつか亜紀に彼女ができて、この笑顔や反則的な顔をひとりの人に向けてすることなんてあるのかな。
その人は世界一幸せ者だろうね。
だって亜紀を独り占めできるんだもん。
「そういえばこの道って帰り道じゃないのになんで……?」
たしか私が足を引きずって帰った時も亜紀はこの道を使ってた。あの時は足の痛さで聞くまでには到(いた)らなかったけど。
「うん。ちょっと行くところがあってさ。部活も引退したし、これからはそっち優先っていうか……だから帰り道に会うことが増えるかもね」
行くところ?優先?受験生だし図書館とか?でもこの方角に図書館はないし、どこに行くんだろう……。
と、私が気になっていると亜紀がその顔色を読んだみたいに笑う。
「じゃ……見にくる?」