100万回の祈りをキミに
「ちょっと先輩なにしてんすか~。早く練習付き合ってくださいよ!」
向こうで仲間が亜紀のことを呼んでいた。
亜紀はカバンからウインドブレーカーを出してそれを羽織った。白地に赤色の二本線。胸には【TUKAMOTO】とアルファベットで名前が表記してあって、背中には桜の花びらのようなロゴ。
そして〝春風〟というチーム名が書かれていた。
はる……かぜ。
亜紀が作ったチーム。
コートの中に入るその背中がやけにカッコよく見えて見とれてしまいそうになった。
「先輩、早く試合組んでくださいよ。部活だけじゃ体が鈍っちゃって」
「バーカ。亜紀はこれでも受験生なんだよ。年が明けて来年の春からでもいいだろ」
亜紀は学校と同じようにみんなに慕われていて、人気者だった。
……試合かぁ。いつか見てみたいな。
亜紀の楽しそうな練習と仲間たちとのやり取りを見ていたら、いつの間にか辺りはすっかり暗くなっていた。
日が沈むと同時にコートにはオレンジ色の照明が点いて、たまにナイターもやっているらしい。
「チームメイトの人たちみんな良い人だったね」
その帰り道、私はもちろん亜紀と一緒だった。
大学生や社会人の人もいて、髪を染めてたり見た目はすごく怖そうな人もいたけど帰り際は「波瑠ちゃんまた来てね~」って快く手を振ってくれた。
「はは、うん。良い人たちだけど波瑠に余計なことは言うなって釘をさしておいたからね」
「?」
「俺が女の子連れてきたの初めてだったから。本当は色々聞きたかったみたい」
亜紀は清々しい顔をして言ったけど私の頭は軽く混乱している。
……女の子連れてきたの初めてだったんだ。
嬉しいけど。ものすごく嬉しいけど……。
それにはなにか理由があるのか、ないのか私には分からない。
なんで私を連れてきてくれたの?なんて、聞けるわけないし……。