100万回の祈りをキミに
完全に亜紀の家からは逆方向……なはず。
私は無事に帰れたけど亜紀が心配。だってこんなにキレイな顔の男の子が歩いてたら、その気がなくても誰かに襲われるかも……なんてバカなことを考えていた。
「もうここで大丈夫。亜紀も気をつけて帰ってね」
「うん。じゃまた明日……」
と、お互い手を振ろうとした時。私の背後で声がした。
「波瑠っ!」
ビクッとしたのは名前を呼ばれたからじゃなくて、その人物が……。
「……お、お母さん」
少し遅くなると事前に連絡はしておいたけど、まさかこのタイミングで出てこなくてもよくない?
しかも完全に一緒にいる相手が凪子だと思ってただろうから、亜紀の姿を見て開いた口が塞がらないって感じ。
ああ、どうしよう。すごく気まずいんだけど……。
すると亜紀は帰りかけた足を再び戻して、お母さんに頭を下げた。
「初めまして。塚本亜紀です。ちょっと俺の用事に付き合ってもらってしまって。帰りが遅くなってすいませんでした」
亜紀が悪いわけじゃないけど、こうやってちゃんと言える人は大人になってもそうなんだろうなって未来の姿を想像した。
……やっぱり私も亜紀のお父さんに会った時にしっかり言えば良かったよ……。
「あら、初めまして。波瑠の母です。……もしかして波瑠の彼氏?」
「な、なに言ってんの?」
うちのお母さんは固い感じじゃないし、むしろ恋愛の話は好きだと思う。初恋の話もノリノリで喋ってたし。
だから逆に危険というか……なにを言いだすか分からないからひやひやする。
そんなお母さんの言葉に亜紀は笑顔で言った。
「それは〝まだ〟ですね。それじゃ、失礼します」
また一礼して去っていく後ろ姿をどんな顔して見ろっていうの?まだ、とかさ……。本当に勘違いしちゃうから。
「亜紀くん礼儀正しくて素敵な子ね」
「さっそく亜紀くんとか呼ぶのやめて」
「いいじゃないの~!お母さんが20年若かったらなぁ」
お母さんまで虜にしてしまう亜紀はやっぱり完璧な人だ。