食わずぎらいがなおったら。

5月

飲み会

「香さん、俺待ってるから、早く来てね」

終業後人の少なくなったフロアで、無駄に耳元で囁いてくるこいつは、平内タケル。

３つ下の後輩。



うちの会社の20代でいちばんイケメンと評判の入社4年目、25才。

短くてもくせっ毛なのがわかるふわっとした髪質で、いつも余裕ありげに笑っている優しげな表情。

どちらかと言えば、かっこいいよりかわいい。



顔より特に声がいい。

それほど低くはないけど、深いというか響くというか。

好きなタイプの声。



本人にうっかり言ったのを覚えられてて、ふざけてこうやって耳元で話しかけてくる。



無駄に色気を振りまきやがって。年上をからかうなんて10年早いよ。



年下にはかっこよく、年上には甘えて振舞うという技も使いこなせる。

モテレベルの高いイケメンくんだからね、文句を言ってもしかたない。

本気にさえしなければ、かわいい後輩だもん。





「早く来ないとさ、みんな酔っぱらってたちが悪くなっちゃうよ」

平内は楽しそうに言って、さっさと行ってしまった。




残っている社員もまばらになってきた。

今日は私もここで切り上げようかな。明日頑張ろう。




１階に下りて、駅前の居酒屋に向かうことにする。

会社の飲み会にしっかり参加するのは久しぶりかも。