食わずぎらいがなおったら。
「米沢さん、平内くんと同じ路線ですか?」

酔ってたはずの彼女が聞いてくる。

「そうなの、ここから近いから終電も遅くて」

名前が思い出せない、なんだっけこの子、転職してきた子だ。

「もしかして今まで武田さんと一緒でした?」

彼女に重ねて聞かれた。なに?

「今日同期会だって。武田さんが言ってた」

平内が彼女に向けて言う。

「こんな時間まで?」

平内を見上げて、おかしいでしょって感じに聞く。



ああ、会の後に武田と2人でいたんでしょって言いたいのね。

もしかして総務女子は全員敵なのかも。まぁ、この状況じゃ言いたくもなるか。



「改札まで送るよ。じゃあ香さん、また。引き止めてすいません」

平内が切り上げさせて、彼女を別の路線のほうに促した。




総務の人達が噂の発信源なのはわかってるんだけど、ああやって敵意をむき出しにされるとやっぱりなぁ。

新婚の武田と不倫しつつ、平内にも色目を使ってる、ということになるんだろう今日のことは。

今までだって、変な噂は色々あった。ほっとけば収まるのかなと思って来たけど、何年経っても相変わらずだ。小さなことを取り上げて、悪意をぶつけてくる人達がいる。

気にしてないふりをしてるけど、私のことが嫌いだと、認めてないというメッセージは、少しずつ少しずつ私を削っていくのかもしれない。特に恋も仕事も先が見えないこういう時には。



誰がどこまで信じてるのか、わからないけど。

あーあ、ついてないな。なんであんなタイミングで会っちゃうんだろう。
< 17 / 85 >

この作品をシェア

pagetop