食わずぎらいがなおったら。
間口の割に奥へ広い居酒屋の、入って一番奥の座敷。よく、うちの社員が集まって飲んでる。
私達が新人の頃から、メンバーは入れ替わりつつの固定席。今は入社2-3年目の子達が毎週のようにつるんでいるって。
今日は春に開発に配属された新人達を囲んでいるらしい。
遅れてきたのでそっと奥座敷に上がると、思いのほか皆が一斉に顔を上げてこちらを見たのでびっくりした。
「香さん、ほんとに来た!」
「来たー!」
「奥、奥どうぞ、こっち座ってください!」
ハイな感じで誘われるままに、奥のほうに空けてくれた席に入りこむ。皆もう酔ってるなぁ。
何?新人歓迎会こないだやったばっかりだけど、今日もお座敷貸切?
「人数多いね」
「やだな、香さんが来るからですよぉ」
平内の1個上の沢田が肩を叩いてくる。顔が赤いし、何より声が無駄に大きい。
座る位置間違えたかも、沢田は絡み酒だからあんまり好きじゃない。
「とうとう別れたって、ホントなんですか?」
やっぱりその話ね。
沢田だけじゃなく、その周辺の人たちも聞こうとしてるの、わかってるよさすがに。
君たち酔ってるからって、単刀直入すぎるでしょ。
別れて間もないんだからもうちょっと労わろうよ。
「はいはい。ほんとです、いつでも遊べます、よろしくね? そんな不幸話聞くために人数増えるとか、暇すぎでしょ」
「大丈夫です、香さん。オレ!俺も1人です!香さんになら遊ばれてもいいです!」
沢田が悪酔いしてる。面倒くさい。
思いっきり嫌な顔をするけど、本人は気づかず間を詰めてくる。
向かいのテーブルで、壁に背を預けて片膝を立てた平内と目が合った。
横目で沢田を見てから、また平内に目を向けて、無言でアピールしてみる。
「沢田さん、沢田さん。こないだの試合のこと、俺まだ聞いてないんですけど。三上もフットサル興味あるって。来て来て」
「おー?なんだ、三上もサッカー経験者か?」
さすが平内。
すぐに沢田を自分のテーブルに呼び出してくれた。
お礼も目線で伝えようと思ったけど、もうこっちを見もしない。できた後輩だ。