食わずぎらいがなおったら。
噂をすればなんとやらで、営業の川井さんが、米沢いるかと怒鳴り込んで来た。柄が悪い。

このおじさん、相変わらず私を目の敵にしてる。



「ここの変更渋ってるってお前だろ。お客の希望なんだよ、なんとかするのが仕事だろ」

「何度も先方に確認して、やっと広瀬さんが詳細固めた部分なんですよ。また上から降ってきた思いつき聞いてたら、間に合いません」

本当だ。営業の広瀬さんと一緒に客先に出向いてまで話した。

それを頭越しに怒鳴りつけて来るってなんなの。広瀬さんと話してよ。



「お前な、営業にちょっとはいたんだからわかるだろ、うちから小回りのよさをとったら、大手に敵わないんだよ。何様のつもりなんだよ」

「簡単にできる対応ならとっくにやってますけど」

いい加減にしてよ。開発スケジュールだって相当タイトなのに。

「そうやって融通が利かないから営業で使えなかったんだぞ、米沢。わかってんのか」

痛いところを突かれて、一瞬黙った。



「今日中に修正スケジュールもってこいよ」

それを承諾と取ったのか、勝ち誇ったように言うだけ言ってさっさと帰っていく。

頭に来る。でも、出方を間違った。悔しい。




振り返ると、田代さんが席から呼んでいる。イライラしているのを隠さず言い放たれる。

「あんな態度じゃうまくいかないのわかるよな、妥協点を探せるだろう」

「はい」

「今回は対応して。次はもっとうまくやって」

「はい」

「何年やってんの、いつまで下っ端のつもりだ」

「…すみませんでした」

川井さんに比べたら、田代さんの叱責なんて大した勢いでもない。

でも、ダメージレベルは桁違いだった。

何年やっても、変われてない、ほんとに。いつまでも下っ端でしかない、役に立ててない。もう30目前なのに。



田代さんにも、そう思われてるんだ、私。
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