食わずぎらいがなおったら。
いったん部屋を出て、休憩室に行く。午後一番のこんな時間、あそこには誰もいないはず。
とりあえず、手の震えをとめないと。こんなことで泣きたくない。今更、絶対。
誰か入って来てはっとした。
平内だ。
他の人よりいいけど、今は慰めでも話しかけられたくない。目をそらし下を向いた。
自販機がガタンと音を立てたあと、俯いていた目の前に、カフェオレの缶が差し出される。
「こういうの、飲まないんだけど」
「たまには甘いのもいいでしょ」
押し付けられた缶をまだ少し震える両手で握っていたら、すっと取り上げられた。
なんなのと目をあげたら、その缶で頭をコツンと叩き、プルトップをあげて返してくる。
開けてくれたのか。
「わざとだよ、あれ」
平内は一言呟くと、そのまま自販機に向き直ってお茶だけ買って、行ってしまった。
甘ったるいそれをゆっくりのんで、ゴミ箱に投げ捨てて、開発室に戻った。
確かに、甘いものを飲んでちょっと落ち着いたかもしれない。
この案件のチームリーダーにも謝ると、香ちゃんのせいじゃないよ、調整してくれたのに悪かったね、と言ってくれた。
米沢さん、手伝うよ、と半田さんもやってきて、その日は3人で開発中に頭を下げ、協力会社さんにもかけあって変更をお願いした。
営業にも田代さんにも怒鳴られたのをみんな知ってるからか、驚くぐらい協力的にこの件を優先すると言ってくれた。
そうか、わざとってそういうこと。
田代さんは時々やる。
やるべきことを、やる人だ。