食わずぎらいがなおったら。
川井さん案件に数日振り回されて、他の仕事をほったらかしたつけが回ってる。
残業続きだけど、もう少し頑張ろうかな。
うーんと伸びをして、また甘いもの飲んじゃおうかと休憩室に行くと、田代さんが打ち合わせ用のテーブルで1人書類に目を通していた。
邪魔したくないけど、目をあげたので挨拶だけする。
「お疲れ様です」
「こないだ、言いすぎたな。悪かったね」
他の人がいないからか、突然謝られた。気にしてくれてたんだ。
「わざとなんでしょ。いいですよ、別に」
「わかったか」
嬉しそうに笑って、書類を置いて足を組んだ。
腹黒いのに、人のいい笑顔を見せるのが厄介な人だ。
ああいうことわざとして嫌われるとか、思わないわけ?嫌うはずないけど。
「もしかして営業とも結託ですか」
「いや、川井さんがひどいからさ、まあ乗ってみたというか」
「相変わらずですよね、田代さん」
そうかな、とまだ笑ってる。
ほんとですよ、容赦ないところも、結局優しくしちゃうところも、変わってません。そういうのにいちいち泣かされてたんですよ、恋をしていた時は。
別の意味で今回もダメージ受けましたけど、かわいい後輩に救われましたよ。
なんて言えるわけないから、黙って自販機でカフェオレを買って、ここで飲んでくか席に戻るか考える。
それにしても。言い過ぎた、か。でも、本音だよね。何年やってんだって。
武田は今年からチームリーダーをやってる。私はあと何年やってもできる気がしない。
飲んでたら邪魔かなと出て行こうとしたところに、田代さんが座ったまままた話しかけて来た。
「平内と、つきあってるの?」
「なんですか、いきなり」
「いや、なんとなく」
なんだかわからないけど、無性に腹が立った。
なんなの、いきなり。仕事の話じゃないの、今。
「社内の若い子には手を出してません。先輩のポリシーから学んでますから、大丈夫です」
「…それとこれとは、状況が違うでしょ」
「どこがですか?」
状況? 仕事には見込みがないから、社内で相手見つけて結婚でもしろっていうわけ? なんなのそれ。
「ちょっと幸せになったからって、世話焼きですか。そういうの迷惑なんで、やめてもらえますか」
かっとなって言った瞬間、何を言ったんだ私、と思った。
田代さんに、よりによってなんてことを。