食わずぎらいがなおったら。
平内との内緒話
私が7月のあの日逃げ出してからも、田代さんは相変わらずだ。
ちょこちょこ仕事を頼んでくるし、軽口も叩く。何もなかったように。
そうだった。あの頃も、気まずくなるのも許さない人だった、私がどうじたばたしても。
でも、平内のことはさすがにあれから聞いてこなかった。
平内には、こないだの迷子発見のお礼にごちそうさせて、と言ってみた。
ちょっと驚いた顔をしてたけど、俺結構飲むけど、潰れたら連れて帰ってよ、と上から見下ろして言う。
お酒強いの、知ってるよ。
いいとこ知ってる、というのでお任せした。
居酒屋かなって思ったら、裏道の小綺麗なイタリアンに連れていってくれた。
地元でもこういうとこ、知ってるんだなぁ。女の子とくるのかな、やっぱり。
「そういえば、前に言ってた月と太陽ってどういうこと?」
と、ふと聞かれた。先輩と比べたこと?気にしてる?
「平内って夜っぽいから。ホストとかバーテンダーとか、夜で、女の子がいる仕事してたこととかありそうだよね」
そういう意味だけじゃないんだけど、そっちはまあ言いにくい。
最近ほんとによく夜道を一緒に歩いてくれてる。月みたいって思うよ、いると安心する。
平内はちょっと真顔になって黙ったあと、ボソッと答えを返してきた。
「キャバ嬢の管理。黒服ってやつ」
ふーん、そういう仕事。よく知らないけど、当たりだ。夜の仕事だ。
珍しく勝てたような気持ちで笑みが漏れた。
「なんで?」
平内のほうは、不満そう。隠してたのかな。
「モテるんだろうけど、女の子とめちゃくちゃ遊んでたってよりは、冷静に観察してそうだから。仕事かなって思ったの」
「なるほどね。意外と見てんだね」
機嫌が直ったらしい。
ビールを煽りながら、なんか考えてるみたい。