食わずぎらいがなおったら。
「香さんもなんかあるでしょ」
「別に何も?かたぎだよ」
「そういうんじゃなくてもさ、内緒にしてること」
内緒?
別に特にないけど… あー、なくはないか。
「大したことじゃないよ」
「いいよ、教えてよ」
「1Kの賃貸に住んでるってみんなに言ってるけど、ほんとは1LDK、分譲」
「彼氏と住んでたとか?」
「そんなんじゃないけど」
むしろ彼にも言ってなかった。向こうは賃貸に住んでたし、そういうの嫌がられるかもって友達にも言われたことある。
「なんでそれが内緒?」
「22才でマンション買わないでしょ普通。親掛りだけど。なんとなくだまってて、そのままきた感じ」
今さら言うのもなぁっていうか。今言うと、おひとりさまコースって感じもしてまた微妙かなとか。考えすぎか。
「おもしろくもない話でしょ」
「いや、十分面白いよ。お嬢さんなのかなとは思ってた」
「違うってば。そう言われるのがいやで。実家が不動産屋なだけなの」
平内は満足気。でも、お嬢っぽいって言われるのは、たいてい良い意味じゃない。
大学の時は、姫とか呼ばれてた。態度が偉そうらしい。
そういうの、気をつけるようにしてるんだけどね、出てるかな。
「そんなことよりさ、夜の仕事の話してよ」
「別に。学生の時だし」
ほんとに嫌そう。悪いことしてたのかなぁ。
「なんで辞めたの?そういうのってハマりそうなのに」
「割のいいバイトってだけだったから」
「そういう冷めてる考え方も、不思議だよね」
「興味出てきた?」
「ちょっとね」
平内は片親で、大学の学費は奨学金と親戚からの借金だったんだって。早く返そうと思ってバイトしてたって。
仕事は面白かったけどね、普通に、と言う。
そういう事情か。実家暮らしなのも、家賃出してるからなのかもね、言わないけど。
「それ聞いたら、私はお嬢さんかもね」
なんとなくへこむ。世間知らずっていうか、役立たずっていうか。
「女の子は、お金の苦労なんかしない方がいいよ」
平内は、いつも通りニコッと笑った。
苦労なんか似合わない、きれいな顔で。