食わずぎらいがなおったら。
「香さん、一緒に帰ろ」
待ってるからと言ってた割に飲み会では寄ってこなかった平内は、駅の近くで人がバラける頃に声をかけてきた。
住んでる駅が隣だからね。
「さっきありがとね。沢田酔ってた」
「ああ。沢田さん半分本気だからね、気を付けたほうがいいよ」
「酔ってなければ普通だよ。実際誘われたことなんてないし」
「まぁ、酒の勢いでもなければね。香さんは高嶺の花なんだよ、自覚しなよ」
ホストとかやってたのかなぁって時々思うくらい、平内は口がうまい。
仕事の時は敬語なのに、2人になるとため口で距離を詰めてくるのとかも、慣れてるなぁと思う。
でも、平内は沢田と違って距離感を調節できるので、居心地がいい。
モテるだけに来るもの拒まずってタイプで、こっちがその気にならなければ安全な男だと思う。
色恋なしで付き合える貴重な友達だと、私は思ってる。本人には言ってないけど。
まあモテる男におこがましいでしょう。
「平内と帰るの、久しぶりだね」
「香さんつきあい悪いからね」
「新人歓迎会ちょっと出たよ、いなかったのそっちでしょ」
「俺、あの日先帰った。すれ違ったかな」
「大人数苦手だもんね?お互い」
「俺は余裕で行けるけど。香さん嫌な顔してたりするもんね。さっきみたいな」
かわいい顔が意地悪そうに見下ろして笑う。
感情が顔に出やすいと、私はよく言われる。
「酔っ払い苦手なの、知ってるでしょ」
「飲めそうなのにね」
「言われるけど。歩けなくなっちゃうし」
「飲ませたらお持ち帰れるなぁ、俺」
「実家でしょ」
軽口を叩きながら電車に乗り、降りたホームで手を振った。
飲めないとはいえ、もうちょっと飲んでもよかったかな。
今日はなんだか不完全燃焼。