食わずぎらいがなおったら。
9月
トラブル対応
仕事が立て込んできて週末もほとんどなく出社して、疲れてきていた。
真奈の担当を減らしたことで油断して、ろくにチェックしなかった。真奈も慣れてきたからか、聞いてこないで進めている。
真奈がいるからか、最近前よりみんなに仕事を振られてる。対応が間に合わなくなりつつある気がする。
田代さんは、頼みごとをしてこなくなった。
もう少し頑張れば。この山場が終われば落ち着く。
午後のフロアで、佳境を迎えているプロジェクトチームが騒ぎ始めた。トラブル?
「香、ちょっと来て」
固い声で、武田に呼ばれた。
「仕様のバージョンが狂ってる。いじってるよな?」
「え。ずいぶん前に確定してるでしょ、それ以来触ってないよ」
「ほら、これ、最終更新者お前だろ。古いのに戻して、しかも保護かけてない。なんなんだこれ」
そんなわけない、と覗き込んでから固まった。本当だ。なんで?
「とにかく、仕様対応漏れチェックするぞ。手伝える奴いたら貸してください」
武田が他のチームに声をかけて、動き出した。
この日付のあと入った修正の量にもよるけど、動作テスト期間はギリギリしか取れていない。
まずい、これ、間に合わないかも。
その後のことは、思い出せないぐらいゴタゴタで、ヘルプで入った平内とあと数人の助けを借りて、修正箇所の洗い出しと潰しが始まった。
原因追究している時間なんかなくて、とにかく修正だ。稼働まで日にちがない。
営業へは田代さんと半田さんが謝罪し、調整を依頼してくれたらしい。
就業時間をとうに過ぎて、修正スケジュールの目処がどうにか立った頃、田代さんに呼ばれた。
「香ちゃん、ちょっと。C会議室」
ザワザワ作業をしていたフロアが、一瞬静かになった。容赦しないときの田代さんだ。
怒鳴られたほうがマシだと思う。静かな、呆れたような顔を向けてから、廊下に出て行く。
「香さん、私も」
と言う真奈に、大丈夫、真奈はもう帰っていいよ、と言い聞かせた。
「私です、私が香さんのPCで作業頼まれたときに、たぶん触っちゃって」
わかってる。真奈と話すのを避けていた、私のせいだ。
「真奈、PCに触らせたのもチェックが甘かったのも私が悪い。真奈じゃない」
ダメだ、泣きそうだこの子。
顔を上げると、平内がいて目が合った。きっとなんとかしてくれる。
まかせて会議室に急いだ。