食わずぎらいがなおったら。


「座って」

会議室に入ると、向かいに先に座っていた田代さんが、静かに言った。



「なんで、こんなことになった?」

「すみません、私のミスです」

「そんなことは言わなくてもわかってる。何があった?」

「真奈に任せるべきじゃない仕事を任せて、チェックを怠りました」

「どうして?」

答えられない。恋愛がらみの私情です、なんて。




「どう見ても、回ってなかったよね、仕事。ギリギリになれば言わなくても誰か助けてくれると思った?俺とか、半田さんとか」

否定できなくて、俯向く。頑張っていれば、認めてもらえるとどこかで思ってた。

そんな甘えが通じるわけないのに。



「香ちゃん、俺を見て、上を見て仕事をしててもダメなんだよ。いつまでも下っ端でいるなっていうのはそういうことだよ。上じゃなくて周りを見てみろよ」

「…見てもわからないんです。武田とか平内みたいにはできません」

もう無理。

そうなりたかったけど、わかんないし、できない。認めたくなかったけど、周りなんか見ても、見えない。



泣きたくない。今ここで、泣きたくない。



「そんなこと言ってるんじゃない。苦手なことがあるってのも、わかってる。できないって言えばいい。できる奴に頼っていい。みんな、手伝おうとしてるんだから」

田代さんの口調が変わった。叱責じゃない、これ。



言い聞かせるように、まっすぐに低い声が響く。

「敵に囲まれてるんじゃないんだよ。俺も、他のやつらだって周りを頼れよ。1人で頑張ろうとするな。営業の川井さんだってさ、あれで香ちゃんと仕事したがってる」

「できないことはできなくってもいいんだよ。言えばやってくれる奴がいる。わかんなかったら聞けば教えてくれる奴がいる。

それでいいから、一緒に仕事をしようって思ってる。香ちゃんはそう言わせるものを十分持ってる」


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