食わずぎらいがなおったら。
裏口に出て、タクシーに乗せられる前に、田代さんが話してくれた。

「プライベートは仕事に持ち込むなって考えもあるけど。俺は、自分のことで手一杯だった時、この会社でみんなに支えてもらったよ。かっこ悪くてどうしようもなくて、自分が心底嫌になってた。離婚寸前だったしな」

道端でタバコを吹かしながら、ゆっくりした調子で言う。

「管理部に寄った時に、田代さんは絶対に大丈夫だから、絶対に戻ってきてくださいって言ってくれたよな。
こんなにどうしようもないのになぁ、それでも信じてくれてる奴がいるんだなぁと、思ったんだ、その時。
香ちゃんにいつまでもかっこ悪いとこ見せてられないなぁって」



「ありがとな」

横目で私を見て、大好きだったあの声で静かに言った。




タクシーがついて、乗り込む。

「明日は休め、業務命令な」

田代さんはそう言うと、運転手さんに行き先を告げた。

車が走り出した途端、堪えていた涙がまた溢れた。




一度も応えてくれなかった。だからなかなか吹っ切れなかったんだと思ってた。

でも、何もなくても、愛されてる、絶対に。恋じゃなくても。



ありがとう。

大好きでした。

報われなくても、あの頃、あなたに恋をして、幸せでした。
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