食わずぎらいがなおったら。
田代さんが何か声をかけて出て行って、休憩室に2人になる。
こっちは緊張してるのに、平内は自販機に向かいながらまるで普通に話しかけてきた。
「なにやってんの。帰るとこ?」
「うん。田代さんがいたから、もう帰ったらって言ってみたんだけど」
「ああ。今ちょっと色々あるからなあ、あの人。忙しいんじゃないかな」
そうなんだ。相変わらずよく知ってるね。
「余計なお世話なのわかってるけど、少しは早く帰ってあげたらいいのに。臨月なのに」
お姉ちゃんだって、健太の時、急に産気づいて大騒ぎになった。
でもわからないかもしれないな、平内にも。さすがにこういうのは。言ってもしょうがないかなって、なんとなくうつむく。
「健太のとこは?産まれた?」
あ、そんな話したね。夏祭りの時。
健太がタケルがどうのこうの言ってて、彼氏かとお父さん達が騒いでいるらしい。残念ながら、違うのよ。
「もう少し先。また女の子で、お姉ちゃんが喜んでる」
「大変だね、おばさん」
目を上げると、平内がにやっと笑ってる。久しぶりだ、こういうの。私も笑った。
「帰るね。平内も大変だね、遅くまで」
言って、振り向いてドアのほうへ向かった。
「俺も手伝ってるから、ちゃんと帰すよ」
さっさと追い抜い抜いて行く途中、すれ違いざまに頭にふわっと手を置きながら言われた。
さっき田代さんにだってぽんっと叩かれたし。別になんてことない仕草だけど。
もう。何気なく、触んないでよ。心臓に悪いよ。
こんなことで嬉しくなってるのを誰にも見つからないように、下を向いて急ぎ足で帰った。