食わずぎらいがなおったら。
定時間際に、開発部の電話が鳴った。
その日の朝、携帯に連絡が来て田代さんが慌てて帰っていったから、絶対これだ、と思って誰より早く電話を取った。
「香ちゃん?無事産まれたよ」
「よかった!おめでとうございます!」
真っ先におめでとうを伝えられた。やった。
無事に出産に立ち会うことができたって。
元気な女の子だって!
姉の出産より正直嬉しくて、ごめんお姉ちゃん、と心で詫びる。
「すごい勢いだったね、米沢さん」
半田さんがおかしそうに笑ってる。
「鳴る前に取ってましたよね、今」
真奈が誇張する。そんなわけないでしょ、鳴ってたよ。
「1人目なんですよね」
そうか。真奈は以前何があったら知らない。わざわざ昔の話を掘り返す人もいないし。
「そうだね。きっと子煩悩になるよ、田代さん」
嬉しいのをどうにも抑えきれないまま、答えた。
「香さんて、ほんと田代さん好きですよね」
真奈が呆れたように言う。なによ、喜び過ぎ?
「お祝い、お店からご自宅に送ってもらいますね、半田さん。奥さんの趣味とご希望聞いてあるので、だいたい目星はついてますから」
「任せるよ、よろしくね。こういうのは女の人じゃないとね、わからないから」
「真奈、土曜でよかったんだよね。駅で待ち合わせる?」
こっちから一緒に行ってもいいんだけど、変な話になると嫌だし、微妙に気をつかう。
報告しますねって前に言った割に、告白したとか言って来ないし。どうなってるんだか。
「そうですね、ちょっと遠いんですよね」
「だね、つきあわせてごめんね?」
そんなにこだわらなければ、近場のデパート見に行ってもいいんだよね。やっぱり張り切り過ぎか、私。
「あ、そういう意味じゃないです!」
真奈は慌てて手を振って否定した。