食わずぎらいがなおったら。
翌朝
翌朝。やっぱり寝起きの悪い平内の寝顔を隣で見つめる。
髪に触れると、寝ぼけたまま腕を回して来る。
私だってちゃんとわかってんのかなぁと気になり始めるので、寝息が聞こえたところでそっとベッドから降りた。
朝一緒に部屋にいるとか、なんか変で落ち着かないな。
シャワーを浴びてから、1人で落ち着こうとキッチンに入った。
遅い朝ごはん作ろうかな、起きて来るまで待って食べに行こうかなと考えてたら、後ろから眠そうな声で話しかけられた。
「香さん、俺コーヒー飲みたい」
あれ? 振り向いて顔を見た。
「なに?」
「香って呼ぶことにしたのかと思って。昨日そう呼んでた」
ベッドで。 あれ、急に赤くなった、と思ったら抱きしめられてた。
「呼んで欲しいなら、呼ぶけど」
と上からボソボソ言ってる。
何それ。別にどっちでもいいけど?
見上げたら、見るなよ、と頭を肩に押し付けられる。
なによ、そんなに恥ずかしいなら呼ばなきゃいいでしょ。でもなんかちょっと面白いね、照れてるのとか。
「私もタケルって呼ぼうかな。でもあんまり変わんないね、そっちは」
からかうつもりで言ってみる。
名前呼ぶだけでそんなに照れるなんて意外。もともと偉そうにタメ口のくせに。
「俺のこと呼び捨てにしてんの香さんだけだって、知ってる?」
は? みんな呼んでるでしょ。
「女の人は全員、平内くん、だよ」
もう立ち直って、偉そうに見下ろして来てる。
「ほんと?開発でも? でも沢田とか三上とか、呼び捨てで呼ばれてるのよく聞くよ」
「沢田さんはそうでも、俺は違うの」
「なんで? イケメン特権?」
「知らないよ。会社じゃなくても、俺あんまり女の子に呼び捨てられたりしない」
なにこの話。私が偉そうだってこと?それとも自慢?
「だからさ、タケルくん、にしたら。で、俺が香って呼ぶ」
ありえないでしょ。なによそれ。
「香、コーヒーいれて」
腕を身体に回したまま、耳元で低く囁かれた。
不本意ながらどきっとして、赤くなるのが自分でもわかった。
下を向いたのに顎を持ち上げられて、にやりと笑って眺めてくる。
なによ、さっきまで自分だって赤かったでしょ。