食わずぎらいがなおったら。


飲み終わったマグカップをローテーブルに置くと、タケルはソファに転がって、文句を言う。

「俺にはつれないのにさ」

「だって。真奈と仲良いし。鍵返されたし」  

「忘れてるんなら思い出せよ、と思ったんだよ」



わかりにくいよ、そんなの! 

忘れるわけないでしょ、そんなの。

慣れてるからそんな風に思えるんじゃないの。こっちは一大事だったのに。



1回だけでそんなに本気になられても困るかなと思って当然でしょ。なんで急に好きになってくれたのか、今でもよくわかんないのに。

「だって、何年も前からずっと知ってたし、そういう関係じゃなかったでしょ。どういうつもりか、わかんなかった。私ばっかり本気になったら、困るかと思ったの」

「わざわざ社内で適当に手出すほど困ってないよ」

「でも、怒ってた。怖かった」

「まあね。ごめん」

素直に謝られて困る。



ソファに寝たまま、ぐいっと抱き寄せてキスしてくる。しすぎだってば、もう。

「俺は、新人のときからいいなと思ってたよ。わかってないだろうけど」

片手で抱いたまま言う。

「うそ。そんな感じじゃなかったでしょ」

「相手にしてなかっただろ」

うそ。今更そんなこと言ってさ、全部食うだったじゃん、あの時は。口がうまいんだから。



いくら見た目かっこよくても、恋愛対象と思ったことは確かになかったけど。

男グセが悪いって言われてる先輩なんて、そっちだってお断りだったでしょ。



それに新人のときは、ちゃんと後輩らしくてかわいかったもん。いつからこんな、立場逆転してるんだろ。

タケルくんなんて、絶対呼ばないけどね。



下から睨もうとしたのに、あっという間に上から舌が入ってくる。押し戻そうとしたら、ソファに引っ張りあげられて組み伏せられた。

勝ち誇って笑ってる。子供みたい。かわいい。って言ったら怒るだろうな。




年下ってなんなんだろう、ほんと。

初めて過ぎてドキドキする。
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