食わずぎらいがなおったら。
10月
異動とその後
開発部内での恋愛は何かと気を遣うかなという心配は、タケルが突然異動になって杞憂に終わった。
プロジェクト終了を待たず、10月1日付で営業部への異動辞令が出て、社内でちょっとした話題になった。
周りは驚いていたのに、本人は当然のように受け止めている。
「知ってたの? なんで驚いてないの? 希望とかしてたの?」
「いやちょっと。たちの悪いおっさんに気に入られてさ。こういうこともあるかなと思ってた」
「え?川井さん?」
「そうじゃないけど。でも、営業も興味あるからちょうどいいよ」
何か考えているみたいだけど、詳しくしゃべらないからわからない。誰かに何か言われているらしい。
たちの悪いおっさんなんて他にいる? 営業部長のことかな。
まぁ別に聞かなくてもいいのか。楽しそうだし。
開発と営業の風通しを良くし営業力を上げていくという試みは、まだまだ続いている。
私にはできなかった橋渡し役が、彼ならできるはず。後輩だから負けたくないと思う気持ちは、いつの間にかなくなってた。
負けてもいいし、そもそも誰かと競ってるわけじゃない。そんなことにようやく気づけた。