食わずぎらいがなおったら。
平内はそっとしておいてくれるかなぁと気を抜いていたけれど、そんなことはなく、直球で別れた話題になった。
気を遣ってよ、もう。
「ほんとに別れたんだ?金曜空いてるなんて、めずらしいよね」
「そうかな」
「俺ら新人のときは、付き合いよかったのにね」
3年前は彼氏もいなかったしなぁ。
平内ももっと可愛げがあった。
先輩達もまだ若かったし、終電なくなるまで飲んだりしてたよね。
「振ったんでしょ?」
なんで決めつけるのよ。でも平内になら言ってもいいかな、口堅いから。
「先月の誕生日にね、結婚しようって言われたの」
それはもう予想外で、そんなこと考えてるとも思わないで。
同じく断られるとは予想もしていなかったらしい彼とはぎこちなくなり、結局は別れることになった。
2年以上付き合ったけど、最後はあっけないものだったな。
「彼バツイチだし、そんな気ないと思ってたから、全然心の準備ができてなくて。で、なかったことにして続けるのもできないよね、と」
「結婚したくなくて振ったってこと?」
「その年で何言ってんだと思ってるでしょ」
好きだと思ってたんだけど、この人とは結婚しないなって思った。この人と生きていく未来を全然信じてないなって。
その場で断ったりはさすがにしなかったけど、とにかく夢から覚めたように、終わりだと思ったの。
なんて言ってもわかるわけないから、説明しない。
私にだってよくわからないよ。29だもんね。周りは結婚したり子供できたりしてるのになぁ。
何言ってんだろう、私。
「いや。でも振っといて、落ち込んでるでしょ?」
「うん、ちょっとはね」
「香さんっていつも年上なんだよね?たまには年下試してみたら?俺とか」
次はビールじゃなくてワイン飲む?みたいな気軽さでお勧めされましたけど。
下心ないんじゃなかったの。
あ、社交辞令か。
慰めてくれてるのかも。
「ありがと。年もそうだけど、社内は嫌でしょお互い」
「俺は気にしないけど?」
「それに平内は好き嫌い言わず全部食う、だし。年上だって間に合ってるんでしょ」
「いつの話だよ?」
ギロッと睨まれる。
そういう顔するとガラ悪いよ、かわいい顔が台無しだよ。
新人だった平内達と例の居酒屋で集まっていた時に、それぞれの恋愛ポリシーを語ろうと誰かが言いだして。
平内は【差し出されたもんは好き嫌い言わず全部食う】ですよ、と同期にばらされて、お前何言ってんだよ、とか慌ててた。
いいんじゃないのと思った。
なんでも受け入れるって優しいし、器が大きいんじゃないの。
1回くらい抱いてくれたらよかったのにと、思うもん、あの人。