食わずぎらいがなおったら。

「冗談。今は彼女いないの?」

「いないから口説いてんだけど。食わず嫌いはよくないよ、香さん」

「ありがと。でもそういうのなしでいいから」

なんだろう、ほんとに口説かれてる?

まさかね、モテるもんね、平内 。

どっちにしろ、今適当に次に行く気なんて私はないよ。しかも食われちゃうってわかってる相手にね。



「固いよな。香は誘えば乗ってくるけど最終的に岩より固いって武田さんが前に嘆いてたよ」

「武田か。言ってるだけで、全然そんなのじゃないよ。武田結婚したじゃん」

報われない片思いの末、やけになっていた私を止めてくれたのが武田だ。

私と噂を立てられても、言い訳せずにいてくれた。

微妙な雰囲気になったことが全くないとは言わないけど、ほんとに何もないし。




「香さんは【妻子持ちはパス】だったよね」

「よく覚えてるね」

自分でだって覚えてる。今なら言わないかな。

年取ってくると冗談にならない。

今時年上のいい男はみんな結婚してるんだよ。



「それは守ってる?」

「さすがにね。先に自分ポリシーを決めておけば、間違えたりしないでしょ」

予想外の出来事だから間違えるんだ。最初から、決めておく。

あの人、上司だった田代さんはもう妻子持ちだ。

あのときだってダメだったけど、この先もありえない。




「えらいじゃん」

そう言って頭を撫でてくる。なんなんだこの態度。

まぁでも悪くないな。

睨みながらもつい笑ってしまうと、平内も楽しそうに目を細めた。






お店を出ると、そのままマンションの前まで送ってくれて、帰っていく。

「平内、また誘ってね」

「いいよ。またね」

軽く微笑んで、でもちょっと面倒くさそうに言う。

ほんとかっこいいなぁ、こいつ。かっこいい上に優しいし、仕事はできるし。

年下じゃなくて、社内じゃなくて、遊び人じゃなかったらいいのになぁ。いや、それじゃあ別人だね。





私は実家が少し遠くてずっと一人暮らししてるけど、平内は実家住まい。

会社から30分位でつくから家を出る必要は確かにないとは思う。



でも平内って自立してるイメージだし、親元にずっといるのはちょっと意外。

女の子と遊ぶのにも不便だろうに。

まぁ私には、関係ないけどね。
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