せめて、もう一度だけ
諒からの電話が鳴ったのは、21時すぎ。


遼くんの家で話すことにして、行き方を説明した。


諒が来るまで、ソワソワして落ち着かない気持ちだった。


お互いに感情的になってしまったらどうしよう。


避けては通れないことだとわかってはいたけど、いつかはこうなると覚悟していたことだけど、やっぱり緊張してしまう。



インターホンが鳴り、遼くんがドアを開けると、スーツ姿の諒が立っていた。


「おじゃまします」


小さな声で言いながら、私のところへまっすぐ歩いてきた。


「美希子、俺のどこが不満なんだよ。


同年代の男とくらべたら、収入は多いと思うし。


子どもだってできたんだし、俺と一緒に仙台へ帰ろう」


遼くんとつないでいた右手に力を入れて、諒の顔を見ながら答えた。


「仙台へは帰らない、離婚してください」


「離婚はしない」


「私は田辺くんと暮らしたいの、赤ちゃんも私たちが育てる」


「そんなワガママ通るわけないだろ」


「ごめん、仙台へは帰らない」


そこへ、遼くんが割って入った。


「美希子さんを、自由にしてくれませんか」





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